やまゆり園殺人事件の被告に死刑判決現社会に投げ掛けた大きな時限爆弾かもしれない

この事件は大方の予想通り、植松被告の死刑判決で一応の
決着を見たわけですが。
被告本人は
死刑になるのは嫌だが仕方がない。
死刑に値する事ではない。
控訴はしない。
意思疎通が出来ない障害者は安楽死させるべき。
重度障害者の家族は不幸に慣れているだけでそれを幸せだと
勘違いしているだけ。
マリファナの合法化が認められたら意思疎通が出来なくなった
障害者は死ぬしかないと気付けるようになる。
などなどと語っている。

私自身、重度自閉症の子を持つ者として彼の言い分には
事件発生以来ずっと注目してきましたが
殺害を決行し、逮捕されてから彼の言動は（報道で知る限り）
全く変わっていないしその頑なさにはある種の哲学さえ感じます。
もし仮に彼がもっと違った、価値創造的な生き方を歩んでいれば
社会から相応な評価を得たかもしれない。
そう思うと誠に複雑な思いになります。
そんな彼の発言の中で私が最も意に止めた言葉は
「重度障害者の家族は不幸に慣れているだけでそれを幸せだと
　勘違いしているだけ」
というくだり。
意思疎通が出来ない障害者の世話をする人は全て不幸だと
決め付けているところがこの考えの起点になっています。
では、不幸とは何だ？
逆に幸福とは何？
この二つが明確に説明できなければ彼の言う言葉には
不偏妥当性は無い。
少し考え方を変えてみると。
例えば江戸時代にも意思疎通の出来ない障害者は居た筈であるが
当時の社会はどのような対応をしていたのか。
将軍家には、或いは数多い武家にも、天皇家にもいたかもしれない。
そもそも障害者、特に意識障害や知的障害を「障害」と認識
或いは定義されたのはどのような状況でどのような定義付けを
為されたのか。
この事も分からず現代の価値観に、社会常識、通念等に
当て嵌めて「障害者の命も全ての命も等しい」と一方的に
思っているだけではないのか。
私は障害者の命と他の命とが等しくはないと言いたいのではなく
本当に世の人々の大半は「分かって思っているのか」
と思うだけです。
もし、時代の違いで障害者の命の重さが変わるようであれば
それは間違っていると思う。
では、戦争中であったならば、或いは食糧難であったならば、
また、今回の新型コロナ騒動のようにスーパーからマスクが無くなり
自分の分さえも手に入り難いという時に、意思疎通が出来ない
障害者に分け与える人がどれ位居るだろうか。
他人の事など全く考えず我先にスーパーへ押し寄せて買い占め
をし、後に並んでいる他人の事など全く気にもしない。
「あぁー買えて良かった」
で終わる人が多く居る今の世の中に本当の意味で
「障害者の命も全ての命も等しい」
と語れる人がどれ位居るだろうか。
そういう観点から言えば植松被告の
「意思疎通が出来なくなった障害者は死ぬしかない」
と言う言葉はもしかしたら今の世の中の人々の無意識の冷淡さを
遠回しに言い当てているのかもしれない。
そう思うと私にはこの植松死刑囚の残した言葉が未来の日本人に
向けられた大きな時限爆弾のように思えてならない。
しかし人は価値を創造して生きる動物であります。
苦しい中でも、貧しい中でも、そして家族や身近な人の中に
意思疎通が出来ないような人が居ても、その人の為に
自分の時間を割いたり、時には人生観や生きる目的までも
変えたりしても、人はその中で価値を作り上げて生きるもの。
確かに苦しい時もあるし楽しい時もあるし。
でもそういう時間の流れの中でそれらが有限のものであると
知りつつ生きる事こそ人生なのだし、
そうした事が幸せなのだと気付く事が出来ればこの先の
日本もまだまだ捨てたものではない。
植松死刑囚の間違いはこの事に気付けなかったと言う事。
人の不幸も幸せも客観的に見る事ではなく主観的に観るべき
事であり、また幸不幸には相対的比較は当て嵌まらない
と言う事に気付けなかった事である。
未来の日本でこの時限爆弾が炸裂しない事を祈る。